リーフはカーテンを開けて冷え切った窓ガラスに額を当てた。火照った顔には気持ちいいが、結露が額を伝うのはどうにも気持ちが悪い。
なぜこう大雨の日だと、窓が窓として機能していないように思えてしまうのか。叩きつける雨以上に、結露と冷たさがそう感じさせるのだろうけど。
体は疲れているが、訓練の直後で気は高ぶっている。ちょうどいい疲労と澄み切った頭で、もう一種別の武器の訓練でもしようと思ったが、この急な雨で出鼻をくじかれてしまった。
休めという指令なのかもしれないが、マスターナイトを目指す立場としては一分一秒も惜しいし、疲労状態にあってもどんな武器でも使えなくては戦場では役に立たないと思う。
しかしこの雨では。
どこかの城に逗留しているならまだしも、廃村に居座っての居留である。ろくな訓練場などなく、青空訓練だ。文句はない、個室があてがわれ、寝るときに雨風しのげるだけでリーフは満足だった。
なんとなく高ぶった気持ちを抑えられないだけなのだ。こうして窓で冷やしてみても、何かできるのではという思いと、明日に備えたほうがいいという冷静さがせめぎ合う。
ノックの音が聞こえて、リーフは窓から顔をはなす。
「ああ」
やってきたのはナンナだった。ラフな服装で、果実水を盆にのせている。
「失礼します、リーフ様。休憩、されませんか?」
「もうしているよ、ナンナ。何もしてない。休んでる」
ふふ、と笑って幼馴染は部屋のすみのテーブルで果実水を注いだ。
「さっき訓練が終わったようだとお兄様から教えて頂いたの。きっとリーフ様は物足りないだろうと思って。この天気だからって、休むようなお人じゃないですもの」
リーフは肩をすくめた。
「気持ちはそうだが行動は何も伴っていない。何かしたいけれど、何もしていないからね。休憩と同じだ」
「何もしていなくたって、それだけじゃ休んだことにはなりませんわ。さあ、どうぞ。座って、飲んで。そしてちょっとナンナとお話ししましょう」
ナンナは先にソファに座る。そして自分の分と、正面にリーフの分、二人分の果実水を置く。
「最近リーフ様は訓練にお忙しくてナンナとろくに話す時間もなかったじゃないですか」
すまし顔で膝をそろえて座る幼馴染にはかなわない、これまでもこれからもそういうものだ。そうだな、とリーフは素直にナンナの正面に腰かけた。
「こういう楽しみがあるなら、こんな天気も楽しいものだね」
「リーフ様がいつも頑張っていらっしゃるから、楽しみと感じられるんです」
にっこり笑うナンナに向かって、リーフは果実水をかかげた。