さて、デルムッドの言葉の通り、本当に近くの城郭で祭りが開かれるとオイフェ様から直々にみんなに公表されました。祭りというか宴かしら。ちょっとした集まりで、ただ本当に帝国の罠でないとも言い切れない、しかし罠でない本心からの誘いであれば招待されたのに行かないのは解放軍としては本意ではない。それならばある程度の警戒をしたうえで、参加してみようと。
そういうお話でした。だから、参加する人員もある程度オイフェ様の選考によるものです。とはいえ、あんなに目をきらきらさせているフィーとリーンが選ばれないわけもなく。それぞれの護衛代わりにと名前が挙がったのがデルムッドとアレス。それから数人の名前が読み上げられ、最後の方にわたしとお兄さまの名前が呼ばれるのでした。
反対したのはラクチェです。もっとも、最近は個人的な場所でだけ叫ぶことを覚えたようで、今も町に行く準備の最中。ラクチェとわたしの相部屋で、迎えに来るお兄さまを待つ間のことです。
「なんでよ! なんでレスターとラナが行くのにあたしはいけないの!」
「ラクチェ、行きたいわけじゃあないんでしょう」
頬を膨らませて感情に任せて腕を振り回すラクチェを、わたしやっぱりほほえましく見つめてしまいます。こうやって、思っていることを素直に表に出せるのは、ラクチェのすごくいいところです。
でも今回は、きっとそれが裏目に出たんでしょうね。
「それはそうだけど」
「デルムッドはきっと解放軍の代表として、わたしは万が一の時の回復要員、お兄さまは遠隔攻撃の要員。みんなお仕事よ」
十数名の名前が読み上げられたときに、なるほどとその理由がよく分かる、でも罠でなければとても自然に寄り集まったようにもおもえる人選でした。さすがオイフェ様。
「いやよ、そんなの。だってみんないくのにあたしだけ居残りよ」
「ラクチェだけじゃないわ、スカサハだってセリス様だって参加しないわ」
「そんなの分かってるけど」
「大丈夫よ、お兄さまのパートナーはわたしですもの」
ラクチェはぎゅうと私を抱きしめました。
「むしろずるい! いいじゃん、あたしがラナのパートナーになるわ!」
「もう、そっちなの」
笑い声はラクチェの体に吸い込まれるようにくぐもって響いて、ラクチェと二人で笑い合って。ノックの直後に入ってきたお兄さまにぎょっとした目で見られるのでした。
いくらわたしたち馴染み二人の部屋だとはいえ、ノックの返事を待ってほしいものですわ、お兄さま。
馬を走らせてほど近い町は、無残に壁が壊されていました。お兄さまの後ろで馬に揺られながら、解放軍が来る前からだと教えてもらいました。わたしはこの町に来るのは初めてですが、お兄さまは解放に立ちあったのかもしれません。ほかにも町の印象をいくつか教えてくれました。
壁を越えてすぐのところにお兄さまは馬を預け、素朴な町の人たちに迎えられてわたしたち一行が案内されたのは、町に少し入ってすぐ、円形に建物が取り囲む広場でした。
大きな木で枠を汲み、火の粉が遠くまで舞うくらいに炎が燃え盛ります。素朴な町並みは、各所に破壊の残る痛々しい姿ではありますが、歪に崩れた石積みのあいだを赤々と燃える焚火の明かりが照らすのは、少しだけ胸が熱くなりました。
もう帝国軍に怯えて暗がりの中で生活しなくてよいのだと、町の人たちが喜ぶようで。それを、教えてくれるようで。
家は多くないと教えられていた通り、町の参加者もそう多くはありません。お互い代表が言葉を交わして、招待の礼を伝えて。ほどなく祭りは始まりました。
はじめは遠巻きにされていたわたしたちですが、リーンが歓迎の礼に舞を踊ると言ってくれてから、徐々に話しかけてくれる人たちが出てきました。まずは女性陣に。
アレスやデルムッドたち、帯剣している男性陣はやはり町の人たちから敬遠されやすいのでしょうか、特にアレスは勘違いされやすい見た目ですし。美しいけれど、怖いと。デルムッドに話しかける人がいないのは、町の代表の方と長く話しているからというのもあるのでしょうけれど。
わたしはお兄さまと二人、お母さまと似たようなお年の方かしら、女性からまずは感謝を伝えられ。そこから身の上話などを聞き始めるのでした。
あまり他の地域の人と話す機会がないからと、彼女は解放軍の話も聞きたがります。一度お兄さまと顔を見合わせてから、当たり障りのないことをにこやかに話して。
そうこうするうちにリーンの舞の準備ができて。
「恐れ多くもあたしの弟が笛をやるって言ってるんです」
少し恥ずかしそうに、でも誇らしげに女性は焚き火の傍、いつもの舞の衣装ですらりと立つリーンの横を指さしました。瓦礫に腰かけ横笛を構えた男性には片足がありませんでした。
「弟は帝国軍が初めやってきたときに抵抗の前線に立って、あんなことになりまして。若い男たちから狙ってやってました、あいつらは。そうして従わせたかったんでしょうね。ここは、地域では最後まで反抗したんです」
「そうだったんですね」
「あたしの主人もそれで死にました、それもこれも全部、解放軍の、あなたたちのおかげで報われた」
湿っぽい話にして申し訳ないと、彼女は笛の音に耳を傾けながら薄く微笑みました。弟さんの笛の音。リーンが腕を上げる鈴の音。
「こんなにもこの町に人が活気があふれるのはずいぶん久しぶりのことでして、ありがとうねえ、本当に」
リーンの一挙一動に観客が沸きます、リーンの誘いに合わせた手拍子、足拍子。楽し気に揺れる笛の音に、女性もうれしそうに揺れ動きました。
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