手遊び/アレス×ティニー


 手を握って、と言われて素直に握りこぶしを二つ作ると、違うわ、と困った顔で微笑まれた。
「丸を作るんです、指で。そう。筒みたいなかんじで」
 無骨な拳からティニーの細い指がアレスの太い指を優しくほぐしていく。出来上がったアレスの指の筒二つに、ティニーのものが一つ。
 空いたティニーの手が歌に合わせて筒の穴にすらりと伸びた人差し指を入れる。入れては次の穴、また次の穴。
 手遊びなのだと言う。昔よく遊んだのだと。
 歌う歌は子供向けの歌のようで、ずいぶん単調で似た音が多い。しかしアレスには聞きなれない言葉の歌だった。異国語なのか、それとも訛りが強いのか。
 次から次へティニーは歌いながら指を入れるけれど、三つしかないからクルクルと目まぐるしく飛び移る。
「お母様が教えてくれたんです。こんなのが楽しかったんです、わたし。お母様とは暗い部屋にいることが多くて、湿っぽい石のお部屋でした。光取りの窓は高くにあって、背伸びしても、椅子に登っても覗くことができなかったんです。
 お母様は時々長い時間出かけて、わたしはその間とても寂しくて、戻ってきたお母様に一緒に遊んでとねだったんです」
 ティニーの母は公女であった。アレスの母も、父のところに嫁ぐまでは公女であったという。生まれた国や育った環境、嫁いだ先は違うが、同じ立場の母を持っていた。
 公女とは、こんな素朴な遊びを知っているのかと呆れにも近い驚きがある。まるでこれでは貧しい村娘の遊びだ。
「ーーって名前の遊びなんですって。歌とおんなじ。意味はわかんないんですけど。どこの言葉なのかしら、フリージでないことは、きっと、確か」
 そうだな、とアレスは頷く。
 ティニー歌う歌の中身は何一つわからない。少し悲しそうな曲調しかわからない。踊り子の、宴の華やかで変調に富んだ曲になれたアレスには困惑するほど新鮮だ。
 なん度も繰り返す同じ言葉がゆっくりになり、アレスの右の穴に人差し指を入れてティニーが歌い終わった。覗き見るように大きな瞳がアレスの顔を伺う。
「おわり、アレスの負け」
「勝ち負けの遊びなのか」
「……そう。きっとね」
 曖昧な言葉だ。負けと言われても何の勝負ともない。しかし負けたと思うと何だか腹がムズムズする。
 抜こうとするティニーの指を素早く握ると、淡い色で瞳が一度大きく揺れ、クスクスと笑い声が溢れた。


2018/09/18